ちゃんとした人だと思った

近所のスーパーに行ったんですが、あいにく混んでいて、列に並んでレジ待ちしてる間なんとはなしに入り口の自動ドアのところで人が往来するのを眺めてたんすけど、そんとき入り口からおっさんが入って来たんですよ。スーパーにおっさんが入ってきた。それ自体はなんも特異なことじゃない。ところがおっさん、よく見ると着ているシャツが、黒いゴミ袋だった。
なんかあのー、散髪代浮かすために自宅でちっちゃい子の髪を切るとき、即席のカバー?こうビニール袋の一部を切り取ったのをアタマから通して子供に被せるじゃないですか。あんなかんじ。で、おっさんのはちゃんと腕のとこも通せるようなってて、ノースリーブのシャツなってた。わりと完成度高い。遠目から見たらゴミ袋って気づかない。サイズもピッタリ。

で、おっさんがそんな服?服じゃないけど、そういうのを着てスーパーに来る文脈というか、どういう事情があってそんな格好で御来店なさるんだ全然検討つかんくて  一瞬思考回路がショートしたんですけど、この手作りの服、そういや見覚えある、これ幼稚園とかのお遊戯会で着るやつだ。
なんかあるじゃないですかお遊戯会で着る手作りの衣装みたいなの、保母さんと一緒になって園児が教育の一環として作るみたいなやつ。そういやちっちゃい頃俺もつけたことあるわそういうの。で、おっさん50くらいの、髪は灰色で肌が浅黒いんだけど割と優しそーな顔つきしてんの。あぁなるほど、この人は園長さんだ、たぶんスーパーの近辺の幼稚園かどっかに勤めててお遊戯会の練習中になにかしら購入すべきもんが出て来たから慌てて買いに来たんだろう。工作に使うガムテープとか。
で、おっさん、つつーっとレジの先にある購入した商品を客自身が詰めるコーナー?があるじゃないっすか。そこに向かってって、そういう場所にはたいていレンジが備え付けられてるじゃないすか、で、レンジのうえにパックの牛乳が置かれてるんすよ。1000mlの。で、おっさんはそれに相対して、牛乳に十文字切って、なにかしらのお祈りをしたのち、その牛乳をラッパ飲みした。

あぁ違うわ。普通にただの頭おかしい人だったわ。なんかスーパーで買った牛乳に常人以上の意味を見出してあげくの果てにスーパーの一角に勝手に聖地を作り上げた人だ。たぶん聖地巡礼のためにスーパーに戻って来たのだろう。


なんかねーこの時に感じた寂寥感は、中1のとき友達ん家に勉強しにいったら、そいつの高校生の兄ちゃんが絡んで来てすげー得意げに三人称単数とかの説明しだしたりして、でも中1なんで素直にすげーって思うじゃないですか、で、年下の子達から滲み出る「この兄ちゃんすげー」みたいな雰囲気をその高校生のにいちゃんは感じ取ってか、さらに饒舌になって先輩風ふかすじゃないですか。「英検も3級だしな」とかいって。で、3年後高校生になって英検3級がいかほどのほのか改めてわかってから、そのにいちゃんのことを「英検3級だしな」の得意げな顔とともに思い出した時の、あの感覚。あれ。