吐瀉

「やりたいことをやればいい、やりたくないことはやらないでいい」
と頭の中でリフレインしながらコンビニに向かっていた。
胸の中にマリアナ海溝のような溝がぽっかりと大きな口を開けて虚しさをごうごうと吸い込んでいた。
212円の発泡酒を一本と黒霧島の紙パック900ml、それとあと氷をカゴに入れ、なんとなく後ろめたい気持ちを抱えたままレジにカゴを置いた。破滅へと向かっていることは判っているのだ。

店員がTポイントの有無を問いそれに愛想よく答え、金をやり取りする。ピピピと小気味よくレジが鳴りガーッとレシートが出てくる。

緑色した埃っぽいマットを踏みつけると自動ドアが笑顔で見送りをした。すこし肌寒い中をもう何度も見た風景を横目に家路につく。少しの後ろめたさに足を引っ張られながら。





起きるともう昼過ぎで、アルコール消毒された脳がすっきりして気分が良い。
はだけた毛布をかぶり直してしばらくのあいだもう一度目をつぶる。暗闇。
羊水に包まれたような安堵感。

冷んやりとした脚元がじんわりと体温をとりもどし身体全体に熱エネルギーが灯されるにつれて脳が仕事を再開しだす。

あぁ、水分がとりたいなぁ。

毛布をはねのけドアに直行する。
アパートの前にあるダイドーの自販機までおよそ10秒。
自販機の途中でペンキに汚れた肉体労働の男がいてこっちを見ていた。タバコの臭いが鼻の奥を締め付けた。
リンゴ紅茶を買って部屋に戻りアルコールに奪われた水分を貪るように補給する。

ふと尿意を覚えトイレに向かうと、嘔吐した跡があった。

記憶にない。

ひどく気落ちした。俺はアル中だ。もう、こんな飲み方はすべきでない。

布団に戻る。黒霧島のパックに描かれた綺麗な装丁が悲しかった。こんな飲み方をされるために、丹精込めてわざわざ作られた訳ではないだろうに。

毛布の中で奥田英朗のインザプールを開いて読む。
小説の中のダメ人間と、伊良部医師の言葉だけが救いだった。

俺は悲しかった。